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福岡高等裁判所 平成6年(ネ)735号 判決 1995年6月16日

控訴人・被控訴人(一審本訴原告・反訴被告)

本下吟市

右訴訟代理人弁護士

横山茂樹

被控訴人・控訴人(一審本訴被告・反訴原告)

田中清治

右訴訟代理人弁護士

斎藤精一

〔以下、控訴人・被控訴人(一審本訴原告・反訴被告)本下吟市を「一審原告」と、被控訴人・控訴人(一審本訴被告・反訴原告)田中清治を「一審被告」と表示する。〕

主文

一  一審原告の控訴を棄却する。

二  一審被告の控訴に基づき原判決主文第二項を次のとおり変更する。

1  一審原告は一審被告に対し原判決別紙物件目録記載の土地のうち原判決別紙図面(二)表示の、、、、の各点を順次直線で結んだ範囲内の土地上に存する建物部分を収去して右範囲内の土地を明け渡せ。

2  一審被告のその余の反訴請求を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審とも一審原告の負担とする。

事実及び理由

第一  申立

控訴の趣旨

一審原告

1  原判決中一審原告敗訴部分を取り消す。

2  原判決別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)が一審原告の所有であることを確認する。

3  一審被告は一審原告に対し本件土地上に存するブロック塀及び廃材を収去して本件土地を明け渡せ。

4  一審被告は一審原告に対し金一〇〇万円を支払え。

5  一審被告の反訴請求を棄却する。

6  訴訟費用は第一、二審とも一審被告の負担とする。

7  第3、4項につき仮執行宣言

一審被告

1  原判決中一審被告敗訴部分を取り消す。

2  一審原告は一審被告に対し金二五五万円及びこれに対する昭和六二年九月七日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

3  一審原告は一審被告に対し本件土地のうち原判決別紙図面(二)表示の、、、、の各点を順次直線で結んだ範囲内の土地上に存する建物部分(以下「本件建物部分」という。)を収去して右範囲内の土地(以下「本件建物敷地」という。)を明け渡せ。

4  訴訟費用は第一、二審とも一審原告の負担とする。

5  第2、3項につき仮執行宣言

第二  事案の概要

一  本件は、隣接する二つの土地の各所有者である双方当事者がそれぞれ本件土地は自己所有の土地の一部であると主張して相争い、一審被告が提起した前訴において、両土地の境界を定めるとともに一審原告に対し本件土地上の樹木等の収去を命じた判決が確定したところ、一審原告は、両土地の境界についての前訴におけると同じ主張に基づいて本件土地が自己所有の土地の一部であることの確認等を求める本訴を提起し、一審被告は、一審原告の本訴請求については既判力ないしはそれに類似する効力のある前訴判決が存在するし、請求すること自体信義誠実の原則に反するから、本訴は不適法として却下されるべきである旨主張したうえ、反訴として、前訴の判決では権利濫用として棄却されたが、一審原告による本訴の提起という前訴の口頭弁論終結後の事情変更によりもはや権利濫用にはあたらないと主張して本件建物部分を収去して本件建物敷地を明け渡すよう求め、あわせて、訴訟の蒸し返しによる不法行為に基づく損害賠償を請求したところ、原判決は、一審原告の本訴請求は確定した前訴判決の既判力には抵触しないものの、これにより既に判断が確定した前訴の争点を実質的に蒸し返すものであり、信義則に反し不適法であるとして右請求にかかる訴えを却下し、一審被告の反訴請求はいずれも理由を欠くとして棄却したため、双方が控訴した事案である。

二  争いのない事実及び証拠によって認められる基礎事実

1  長崎県東彼杵郡東彼杵町彼杵宿郷字本宿下一三八番二の宅地122.31平方メートル(以下「一三八番二の土地」という。)はもと浜野亀三郎の所有であったが、大正二年六月一〇日、一審原告の祖母亡本下イマ(以下「亡イマ」という。)がこれを買い受けた。亡イマは昭和二四年四月五日に死亡したが、一審原告は亡イマの生存中同人から同土地の贈与を受けた(但し、登記簿上は、亡イマから、その三女であり一審原告の叔母である黒川ハナの相続登記が経由され、更に昭和四五年三月二〇日付で同年同月一五日付贈与を原因とする一審原告のための所有権移転登記が経由されている。)。

一三八番二の土地の南東側に隣接する右同所一四〇番の宅地155.37平方メートル(以下「一四〇番の土地」という。)はもと辻カキの所有であったが、昭和四八年八月一日、一審被告がこれを買い受けてその所有権を取得し、同年九月三日、その旨の登記が経由された。

(右事実は争いがない。)

2  一三八番二の土地の南寄り部分には一審原告所有の建物(右同所一三八番地二所在の木造瓦葺二階建)が存在し、その南東側の一部分が本件土地内にある。

(右事実は争いがない。)

3  昭和五七年、一審被告は一審原告を被告として、本件土地は一四〇番の土地に含まれるとの主張に基づき一四〇番の土地と一三八番二の土地(以下、この二つの土地を併せ指して「両土地」という。)との境界は原判決別紙図面(一)表示の点と点を結ぶ直線であるとの確定を求めるとともに、所有権に基づき本件土地上に存する本件建物部分、樹木、石垣及び五段積みブロック塀を収去して本件土地を明け渡すことを求める訴えを提起し(大村簡易裁判所昭和五七年(ハ)第一六号)、これに対し、一審原告は両土地の境界は同図面表示A点とF点を結ぶ直線であって本件土地は一三八番二の土地の一部であり、仮にそうでないとしても、一審原告の前者である亡イマは本件土地を時効により取得したと主張して争い、第一審は一審原告の境界の主張を認めたが、控訴審である長崎地方裁判所は、昭和六二年七月一七日、一審判決を変更し、両土地の境界を一審被告主張のとおり同図面表示点と点を結ぶ直線であると確定し、かつ、一審原告に対し樹木、石垣及びブロック塀を収去して本件建物敷地を除く本件土地を明け渡すよう命じ、本件建物を収去して本件建物敷地の明渡を求める請求は権利の濫用にあたるから棄却するとの判決を言い渡し(昭和六一年(レ)第六号。以下「前訴判決」という。)、これに対し一審原告が上告したものの、上告審の福岡高等裁判所は、昭和六三年三月三〇日、一審原告の上告を棄却するとの判決を言い渡し(昭和六二年(ツ)第四五号)、もって前訴判決は確定した。

(右の事実は乙一ないし三号証によって認められる。)

4  一審原告は前項記載の訴訟が上告審に係属中の昭和六二年九月三日に本訴を提起し、前訴と同じく本件土地は一三八番二の土地の一部であるという主張に基づき、当初は本件土地が自己の所有に属することの確認のみを請求していたが、その後原審において本件土地についての所有権移転登記手続、不法行為による損害賠償、一審被告が設置したブロック塀等の収去と本件土地明渡の請求を追加した。一審原告が本訴請求の原因として主張したところは、要するに、本件土地は一三八番二の土地の一部であるから一審原告の所有である、一審被告は裁判所を欺罔して不当に前訴判決をなさしめたものであり、これは不法行為に該当する、前訴判決が確定した境界は誤りであるが、判決の確定によりもはやこれを争う余地はないものの、本件土地の所有権そのものが一審被告に移転したわけではなく、本件土地は依然一審原告の所有に属するから、本件土地を一四〇番の土地から分筆したうえ所有権移転登記手続をするよう求め、一審被告が本件土地上に設置または放置しているブロック塀及び廃材を収去して本件土地を明け渡すよう求める、というものであった。一審原告は当審において所有権移転登記請求を取り下げ、かつ、予備的請求原因として、仮に本件土地が一四〇番の土地の一部であるとしても、一審原告は時効によりその所有権を取得した旨の主張を追加した。

(右の事実は弁論の全趣旨によって認められる。)

5  一審被告は、前訴判決の確定後、これに基づく強制執行により本件土地上の樹木、石垣、及び五段積みブロック塀を収去し本件土地の明渡を受けたうえ、新たに本件土地上にブロック塀を設置し、また、廃材を置いている。

(右の事実は争いがない。)

三  当事者の主張

(本訴請求の原因)

1 本件土地は一審原告が昭和二四年四月五日に亡イマから贈与を受けた一三八番二の土地の一部である。

2 仮に本件土地が一四〇番の土地の一部であるとしても、一審原告は昭和二四年四月五日に亡イマから一三八番二の土地の贈与を受けた際に、本件土地が一三八番二の土地に含まれると信じてその占有を開始し、これから二〇年を経た昭和四四年四月五日にもこれを占有していた。

一審原告は本訴において本件土地につき昭和二四年四月五日付取得時効の完成を援用する。

3 一審被告は、本件土地上に、ブロック塀を設置し、建物倒壊後の廃材を放置してこれを不法に占有している。

4 一審被告は虚偽の主張及び証拠により長崎地方裁判所を欺罔して両土地の境界が原判決別紙図面(一)表示点及び点を結ぶ線であるという誤った判決をさせ、もって一審原告から本件土地の所有権を奪取しようとした。これは不法行為に該当し、これにより一審原告は一〇〇万円の損害を受けた。

よって、一審原告は一審被告に対し、本件土地が一審原告の所有に属することの確認、本件土地上のブロック塀及び廃材を収去して本件土地を明け渡すこと並びに不法行為による損害賠償金一〇〇万円の支払を求める。

(一審被告の本案前の主張)

一審原告の本訴請求は既判力ないしはこれに類似する効力のある前訴判決が存在し、信義誠実の原則に反するから、右請求にかかる訴えは不適法として却下されるべきである。

(一審被告の本訴請求原因に対する認否及び抗弁)

1 本訴請求の原因1の事実は否認する。

同2の事実については、一審原告が一三八番二の土地の所有権を有することは認めるが、その余は否認する。

同3の事実のうち、一審被告が本件土地上にブロック塀を設置し、廃材を置いてこれを占有していることは認めるが、その余は争う。

同4の主張は争う。

2 仮に、一審原告の取得時効が完成したとしても、一審被告は右時効完成後の昭和四八年八月一日に本件土地を含む一四〇番の土地を買い受けてその所有権を取得し、同年九月三日付でその旨の所有権移転登記を了したから、一審原告は右時効による所有権取得を一審被告に対抗できない。

(反訴請求の原因)

1 一審原告は本件土地上にその所有の本件建物をはみ出させ、もってその敷地である本件建物敷地を占有している。

一審被告の一審原告に対する本件建物を収去してその敷地部分の明渡を求める請求は前訴判決において権利の濫用にあたるとして棄却されたが、前訴の口頭弁論終結後、一審原告は前訴を蒸し返して一審被告の本件土地所有権を争い、本訴を提起するという不法行為に出たものであり、このような一審原告の態度に照らし、もはや一審被告の右請求は権利濫用とはいえない。また、一審被告は本件土地を含む一四〇番の土地上に建物を建築する計画を有しているが、本件建物部分があるために効率的な建物建築を阻害されており、本件建物部分の収去を求める必要がある。

2 一審原告は、本件土地が一審被告の所有であることを認めた前訴判決に対し一審原告が申し立てた上告事件の係属中に、前訴判決によって排斥され、客観的、実体的に理由がないことが明らかな事実を主張して本訴を提起し、本訴係属後訴えを拡張して前訴判決の確定後に一審被告が本件土地上に設置した構築物等の収去等を求めたものであり、右のような訴えの提起遂行は公序良俗に反する違法なもので不法行為に該当する。

3 一審被告は一審原告の右不当訴訟の提起によりやむなくこれに応訴し、かつ、反訴を提起せざるを得ず、これにより二〇〇万円の支払によって慰謝されるべき精神的苦痛、応訴のための弁護士費用一五万円及び反訴提起遂行のための弁護士費用四〇万円の合計二五五万円の損害を受けた。

よって、一審被告は一審原告に対し、所有権に基づき本件建物部分を収去して本件建物敷地を明け渡すことと、不法行為による損害賠償金二五五万円及びこれに対する昭和六二年九月七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(一審原告の反訴請求原因に対する認否)

反訴請求原因1項については、一審原告所有の建物の一部が本件土地上にあることは認めるが、その余の主張は争う。

同2については、一審原告が前訴の上告審係属中に本訴を提起したことは認めるが、その余の主張は争う。

同3の主張は争う。

第三  証拠

原審及び当審記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第四  判断

一審被告の本案前の主張について

前認定のとおり、前訴と本訴とは当事者が同一であるが、前訴における審理の対象(訴訟物)は(1)両土地の境界、(2)一審被告の一審原告に対する本件土地明渡請求権であり、本訴の訴訟物は(1)本件土地所有権の帰属、(2)一審原告の一審被告に対する本件土地明渡請求権、(3)一審原告の一審被告に対する不法行為による損害賠償請求権であって訴訟物を異にするから、本訴請求は前訴判決の既判力によっては遮断されない。

もっとも、両訴の訴訟物の実質的な核心はいずれも本件土地所有権の帰属にほかならないところ、前訴判決はこれが一審被告に属するとの認定に立って右各訴訟物についての判断結果を主文において宣言したのであるが、本訴は直截に本件土地所有権が一審原告に属することの確認を求めるとともに右土地所有権の帰属を前提として前訴とは逆に一審被告に対して所有権移転登記手続、土地明渡及び不法占有による損害賠償を求め、しかも、一審原告がその根拠として主張するところは、結局前訴判決が誤っており、不当であるというのであるから、実質的には前訴の蒸し返しといわざるを得ず、このような実質的な争訟の実質的な蒸し返しを容認するのは確定判決による法的安定性を害し、相手方である一審被告を長く不安定な立場に立たせる結果となるという一審被告の主張は首肯し得ないではない。しかしながら、確定した本案判決の既判力が判決主文で判断が示されている請求の当否すなわち訴訟物である権利関係の存否についてのみ生じるものであることはいうまでもなく、これは紛争の解決方法として当事者が意識的に審判を申し立てた事項に対して裁判所がその法律的当否についての判断を示すのが民事判決の目的だからである。そして、現実に生起している事実上、法律上の紛争につき、その実情に沿った有効適切な解決を図るため、どの範囲の事項をどのように法律的に構成して訴訟の場に持ち出すかは訴えを提起する者の判断、選択にゆだねられているところである。

これを本件に即してみると、本件土地は当事者双方がそれぞれ主張する境界に挟まれた土地であるから、本件土地が両土地のいずれの一部であるか、すなわち本件土地所有権が双方当事者のいずれに帰属するかは同土地をめぐる法律的紛争の根幹をなすものであったところ、一審被告が前訴において本件土地所有権の確認を併せ請求することに支障があったとは認められず、右確認請求を必要としない事情、例えば判決によって境界が確定されさえすれば、一審原告が以後本件土地が一審原告の所有であるとの主張を撤回しその明渡を任意に履行するなどして本件土地をめぐる紛争が一挙に解決に至ることを予測させるような事情の存在も見出されないのであるから、前訴において本件土地所有権の確認を併せて請求しておきさえすれば本件のような一審原告による紛争の蒸し返しを防止できたという意味において、前訴での一審被告の訴訟提起、遂行に不十分なところがあったといわざるを得ない。他方、右の点について前訴における一審原告の応訴態度に非難されるべきものは見られない。そうしてみると、前訴判決において実質上判断が示されているのに既判力が及ばないゆえをもって一審原告がする前訴の蒸し返しともいえる本訴の提起を是認して良いかについては疑念の残るところではあるが、信義則に照らし容認しがたいとまではいえない。よって、一審原告による本訴の提起自体が許されないとする根拠は十分ではなく、訴え却下を求める一審被告の申立は理由がない。

本訴請求について

1  昭和二四年四月五日からの二〇年の占有による本件土地時効取得をいう本訴請求原因については、仮にこれが認められるとしても、前述のとおり本件土地が一四〇番の土地の一部であることは前訴判決によって確定されているところ、一審被告は一審原告が主張する時効完成日よりのちの昭和四八年に本件土地を含む一四〇番の土地の所有権を取得してその旨の登記を了したのであるから、一審原告は右時効による本件土地所有権の取得を一審被告に対抗できず、一審被告の抗弁は理由がある。

よって、一審原告の本訴各請求のうち、本件土地所有権が一審原告に属することの確認請求並びに本件土地上のブロック塀等を収去して本件土地の明渡を求める請求は、その余の事項について判断するまでもなく、失当であることは明らかである。

2  一審原告は、一審被告が虚偽の主張及び証拠により前訴を審理した裁判所をして誤った判決をさせ、もって一審原告から本件土地の所有権を奪取しようとしたと主張するが、前訴において一審被告が提出した攻撃防御方法の全部または一部が虚偽の事実主張、偽造または変造された書証、証人あるいは本人の虚偽の供述であると疑うべき証拠は皆無であり、したがって一審原告の右主張及びこれに基づく損害賠償請求は理由がない。

反訴請求について

1  一審原告所有の建物の一部が本件土地上に存在することは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、本件土地上に存在する建物部分が本件建物部分であり、その敷地が本件建物敷地であることが認められる。

本件建物部分を収去して本件建物敷地の明渡を求める一審被告の訴えが前訴判決によって棄却されたことは前認定のとおりであるところ、一審被告は反訴としてこれと同一の明渡請求を内容とする訴えを提起しているのであるが、右反訴においては前訴の事実審口頭弁論終結後の事由を主張しているから、前訴判決の既判力には抵触しないと解される。

そして、一審原告が前訴における事実審の口頭弁論終結後本訴を提起して一審被告の本件土地所有権を争い、前訴の確定判決により一審被告に明け渡した本件土地を一審原告に明け渡すよう求めているのみならず、一審被告の前訴の提起及び立証活動が不法行為に該当するとして損害賠償まで請求しているという事情のもとでは、一審被告の右反訴請求が権利の濫用として許されないとするのはかえって公平を失するというべきであり、このほか、一審原告は右土地明渡請求が権利濫用に該当するという抗弁を主張してはいないこと(この点は前訴においても同様であった。)に照らしても、一審被告の右請求を排斥すべき理由がないことは明らかである。

2  一審原告による本訴の提起遂行が一審被告に対する不法行為に該当するという一審被告の主張について検討する。本訴が前訴判決の既判力に抵触し、あるいは信義則に照らして不適法ということはできないことは前述のとおりであるが、前訴判決が確定した境界により本件土地が一四〇番の土地の一部であることはもはや争う余地がなくなったのに、独自の見解によってなおも本件土地が一三八番二の土地の一部として自己の所有に属するとする一審原告の主位的請求原因の主張は失当であることが明らかであり、相当性を欠くといわざるを得ない。しかし、一審原告が当審において予備的主張として追加した一審原告本人の占有による本件土地所有権の時効取得の点は、もとより主張自体失当というものではなく、一応は根拠となる事実に基づいており、ただ一審被告の先に登記を経たとの抗弁が容れられた結果採用されなかったにすぎず、弁論に現れた事実に照らし一審被告から右の抗弁を主張されることは当然予想し得たところではあるが、そうであるからといって右時効取得を主張すること自体が許されないとまではいえない(一審原告は原審において裁判所から取得時効の主張をするかどうかについて釈明を受け、主張しない旨確答したという経緯が認められ、当審においてこれを覆して時効取得を主張するに至った点は問題ではあるが、いまだ訴訟上の信義則に違背するとまではいえず、時機に遅れた主張にもあたらない。)。前訴の提起遂行を不法行為に該当するとした損害賠償請求は付加的な請求にすぎず、これを重視することはできない。

結局、本訴は全体として見て裁判制度の趣旨目的に照らし著しく相当性を欠いた場合に該当するとはいえず、したがって、本訴の提起自体が一審被告に対する不法行為に該当するという一審被告の主張は採用できない。

結論

よって、本訴請求については、これを却下した原判決の判断は当を得ないから、民訴法三八八条によりこれを取り消したうえ本訴請求に関する部分を原審に差し戻すべきところ、前述のとおり本訴請求は実体的に理由がなく、これ以上の審理を要せず棄却されるべきことは極めて明らかであるので、控訴棄却の判決をすることとし、反訴請求については、一審被告の控訴には一部理由があるから、これにしたがって反訴請求を全部棄却した原判決第二項を変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九二条但書を適用し、仮執行宣言については相当でないからこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官秋元隆男 裁判官池谷泉 裁判官川久保政德)

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